東京地方裁判所 昭和46年(行ク)8号 決定 1971年2月22日
申立人 田園都市開発株式会社
被申立人 東京国税局長
主文
本件申立てを却下する。
申立費用は申立人の負担とする。
理由
一、本件申立ての趣旨および理由は別紙(一)のとおりであり、これに対する被申立人の意見は別紙(二)のとおりである。
二、被申立人は課税処分と滞納処分とは別個独立の処分であるから滞納処分の執行停止を求めるためには滞納処分の取消しの訴えを本案としなければならないところ、本件申立ては課税処分の取消しの訴えを本案とするものであるから不適法であると主張する。
課税処分と滞納処分は前者が納税義務を確定する手続における処分であり、後者が確定した納税義務を強制的に実現する手続における処分である点で目的を異にする別個独立の処分であり、いわゆる先行処分と後行処分の関係に立つものでないことは被申立人の主張するとおりであるけれども、他面、滞納処分手続は課税処分手続の続行としてなされるものであることも否定できないから、課税処分取消しの訴えを本案として、当該税額の滞納処分の執行停止を求めることは、行訴法第二五条第二項にいう「手続の続行の停止」を求めるものとして適法というべきであつて、両処分が別個独立の処分であるとの理由をもつて本件申立てが不適法であるとの被申立人の見解は採用することができない。
三、ところで、申立人は右公売処分が執行され申立人主張の土地が他人に渡ることになれば、右土地のうちには公衆用道路に供された部分があり、また水槽タンクの設置等があることからこれをめぐつて紛争が発生することは必定であり、申立人は信用を失墜することになるから本件公売処分の執行によつて申立人は回復の困難な損害を蒙る旨主張するが、右事実は本件全疎明資料によつても認めることができない。
してみれば、本件申立ては行政事件訴訟法第二五条第二項所定の回復の困難な損害の点について疎明がないことに帰するからその余の点について判断するまでもなく失当というほかない。
四 よつて、本件申立てはその理由がないので却下することとし、申立費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用し主文のとおり決定する。
(裁判官 高津環 小木曾競 海保寛)
別紙(一)
申立の趣旨
別紙物件目録記載の不動産につき、東京法務局八王子支局昭和三九年一二月一六日受付第二九三九五号、権利者大蔵省の差押登記に基く公売処分は御庁昭和四五年(行ウ)第八号、更正処分等取消請求事件の判決が確定するまで之を停止する。
との御決定を求める。
申立の原因
一、申立人は申立人の左記三期の事業年度の法人税につき、左記のような課税処分を受けた。
一、昭和三五年九月一日~昭和三六年六月二〇日事業年度分
区分
年月日
所得金額(円)
税額(円)
過少申告加算税額(円)
重加算税額(円)
確定申告
三六、八、一八
二、一二三、八一六
七二六、六一〇
更正決定
三九、八、一七
二、六五一、八一六
九二四、三五〇
九、八五〇
審査請求
三九、九、一六
二、一二三、八一六
七二六、六一〇
同裁決
四四、一〇、九
棄却
二、昭和三六年七月一日~昭和三七年六月三〇日事業年度分
区分
年月日
所得金額(円)
税額(円)
過少申告加算税額(円)
重加算税額(円)
確定申告
三七、八、二〇
一二、三八五、六七四
五、二三九、七九七
更正決定
三八、七、三一
一九、五三三、二六七
七、八七三、二三〇
一三五、八〇〇
再更正決定
三九、八、一七
三一、七〇〇、六七四
一三、〇二六、三一〇
一、五四五、九〇〇
審査請求
三九、九、一六
一九、五三三、二六七
七、八七三、二三〇
一三五、八〇〇
同裁決
四四、一〇、九
棄却
三、昭和三七年七月一日~昭和三八年六月三〇日事業年度分
区分
年月日
所得金額(円)
税額(円)
過少申告加算税額(円)
重加算税額(円)
確定申告
三八、八、三一
一一、八五六、二七四
四、四三三、四九〇
更正決定
三九、九、三〇
七〇、一〇〇、三八八
二六、九九八、〇七〇
三三八、四五〇
四、七三八、二〇〇
審査請求
三九、一〇、三〇
一一、八五六、二七四
四、四三三、四九〇
同裁決
四四、一〇、九
棄却
二、而して被申立人は右による法人税徴収の為、別紙物件目録記載の不動産につき東京法務局八王子支局昭和三九年一二月一六日受附第二九三九五号をもつて差押登記をなし、昭和四六年二月二三日午後一時三〇分公売に附する旨公告した。
三、然しながら前記の各更正及び、加算税の賦課決定は著じるしく多額なもので不当なものであるので、御庁に右更正処分等取消請求の訴(昭和四五年(行ウ)第八号)を提記し、現在審理中である。
四、ところで、既に公売期日もせつぱくしており、取消判決の確定をまつていては、公売処分の続行により、別紙物件目録記載の不動産を失う事になる。
申立人は昭和四六年一月二七日に昭和三九年度源泉所得税(本税、加算税)金九一万五〇五九円也を納付したにかかわらず、東京国税局、公売公告第一五号の公売通知書により二重に公売通知書を出した事は不当である。
また六番三、六番三〇は現況は公衆用道路であり、六番二九には豊田団地のゆいつの水源である水そうタンクがある。
若しかかる物件が他人に渡る事になれば同団地は重大な危機に直面する事になりふん争が発生する事は必至であり、かつ信用を失墜する事になり、申立人は回ふくの困難な損害を受ける事になる。
五、よつて申立人は行政事件訴訟法第二五条により、申立の趣旨記載の決定を求める。
物件目録<省略>
別紙(二)
意見の趣旨
本件申立てを却下する。
申立て費用は、申立人の負担とする。
との決定を求める
理由
一、本件申立ては不適法である。
申立人は、公売処分の執行停止を求めている。
しかし、行政処分の執行停止を求めるためにはその行政処分の取消しの訴を提起することが要件とされている(行政事件訴訟法第二五条第二項)ところ、本件は、公売(滞納)処分の取消しの訴の提起がないのに、申立人は、これとは別個独立の処分である課税処分の取り消しを求める訴を提起したことを理由として、滞納処分としての不動産公売処分の執行停止を求めるものであるから、右申立ては不適法なものである。
二、本件公売処分の執行により、回復の困難な損害は発生しない。
(一) 本件の公売しようとする物件は、全て商品として分譲のため分筆したもののうち、売却できぬうちに被申立人により差し押えられた部分である。これら物件は本来売買の目的物なのであつて、かりに、本件物件が公売されることにより申立人が損害を受けたとしても、それは金銭によつて充分かつ容易に填補されるものであつて何ら回復困難なものではない。
(二) 申立人のいう豊田団地がいずれにあるか明らかでないが、申立人が分譲した日野市豊田所在通称くるみ団地には、市営上水道が埋設されて飲料水等として住民に利用されているのである。
申立人のいう水そうタンクは、六番二九にあるのではなく、六番壱と河川敷の境界辺上にあり、二、三の住民に利用されているが、飲料としてではなく、庭池用としてであつて申立人の主張するような重要なものではない。
(三) 六番参、六番参〇の二筆は、道路として利用されていることは認めるが、現況道路であるからといつて必ずしも換価々値がないとはいえない。
ことに、本公売においては、六番壱、六番参、六番弐九および六番参〇は、一括して公売することになつているのであり、かつ、袋地であるから、右道路を公売することにより他の住民に何らの影響を及ぼさないから、申立人の信用が損なわれることはない。
三、昭和四六年二月一〇日付公売通知書(公売公告第一五号)のうち、公売にかかる国税の額、昭和三九年度源泉税本税八八三、四五九円、加算税八一、六〇〇円と記載してあるのは、誤りであることは認める。
ただし、申立人はその余の源泉税の延滞税および法人税について、いぜん滞納中なのであつて、その滞納処分のため本件物件の公売を行なうことに何ら違法はなく、行政事件訴訟法第二五条による執行停止を求められるいわれはない。
以上の理由により、本件申立ては、失当であり却下さるべきである。